ブログは使いづらいので、最初からのリメイクは別の舞台で再開することにします。
Ⅲの再開はなが~い目で見てください。
2012/09/30
2012/07/04
エルフ戦記Ⅲ (2)のつづき
今回の遠征では私が密かに実行しようとしていることもある。それはアマゾネスの捜索だ。
かつて苦難の時代、彼女たちは離散した。
レイティアの説明では、それは三期に分けられる。
最後はセレウコス朝の傭兵として戦い戦場で捕虜になった時点。戦いの相手はプトレマイオス朝だったので、生き残った者はすでに救い出した。
二度めはレイティアが傭兵になることを選択した時。これが黒海北岸にいたグループである。
そして最初は干ばつや疫病で被害を受け、レイティアが女王にった頃に。これはバクトリアの北方、今のカザフスタン辺りで起こったことなので詳細は不明だ。
私が探そうと思い立ったのは、この最初に別行動をとったグループである。レイティアに頼まれたわけではない。ある意味、反レイティア派だと思われるので当然なのかもしれないが……
「だからバクトリアよりかなり北方、いわゆる草原の道あたりを探そうと思う。まだ匈奴は弱体のはずだしね」
歴史通りなら今の匈奴は西の月氏と東の東胡に挟まれた小国のはずだ。
「その辺りには普通じゃいけないだろう」
とトキ。
「まあ、そりゃそうだけどさ」
「それに彼らはまだ経験に乏しい」
「まだ出来立てのほやほやだからしょうがないでしょう」
「できれば安全に経験をつませたい」
「むぅ」
「それに宮殿のだらけた姿しか知らないのはまずいと思うんだ」
「ひょっとして私のことか」
かつて苦難の時代、彼女たちは離散した。
レイティアの説明では、それは三期に分けられる。
最後はセレウコス朝の傭兵として戦い戦場で捕虜になった時点。戦いの相手はプトレマイオス朝だったので、生き残った者はすでに救い出した。
二度めはレイティアが傭兵になることを選択した時。これが黒海北岸にいたグループである。
そして最初は干ばつや疫病で被害を受け、レイティアが女王にった頃に。これはバクトリアの北方、今のカザフスタン辺りで起こったことなので詳細は不明だ。
私が探そうと思い立ったのは、この最初に別行動をとったグループである。レイティアに頼まれたわけではない。ある意味、反レイティア派だと思われるので当然なのかもしれないが……
「だからバクトリアよりかなり北方、いわゆる草原の道あたりを探そうと思う。まだ匈奴は弱体のはずだしね」
歴史通りなら今の匈奴は西の月氏と東の東胡に挟まれた小国のはずだ。
「その辺りには普通じゃいけないだろう」
とトキ。
「まあ、そりゃそうだけどさ」
「それに彼らはまだ経験に乏しい」
「まだ出来立てのほやほやだからしょうがないでしょう」
「できれば安全に経験をつませたい」
「むぅ」
「それに宮殿のだらけた姿しか知らないのはまずいと思うんだ」
「ひょっとして私のことか」
エルフ戦記Ⅲ(2)
普段から用意しているので準備に手間取ることはない。
同行者の人選は相変わらず難しいが、今回の留守居役は帰還後予定している航海の優先権があると発表したので、決定は比較的スムーズである。
ところが予想もしなかったところから邪魔が入った。トキである。彼女は宣教師を連れて行くよう求めたのだ。
キリスト教に取って代わるべくトキが作り上げた宗教には、すでに小さいながら教会組織ができていた。
私は彼ら、教母や宣教師が苦手である。何しろ経典で私はキリスト教で言う大天使に相当する存在なのだ。同席するだけでも、とても鬱陶しい。
当然、猛反対である。
トキの執務室へ乗り込んでまくし立てた。
「今回は思いつきで始めたことだし、単なる情報収集だから。次回ってことじゃダメかな」
秘書を務める奴隷は退出していたので部屋には二人だけだ。
「まあ、ここから逃げるつもりなのに迷惑なことを頼むのは悪いとは思うんだけど……」
トキに下手にでられるとこちらとしても気が引けた。
「少々退屈していたのは認めるけど、逃げるって言われるのは心外だな」
「世界的な宗教にするつもりだから、アジアの人々の反応を早く知りたいんだ。今なら修正可能だからね」
「バクトラまでなら通商路を通じて安全に行けるでしょう?」
「キヨは、別の道を行くのよね」
「実は」
※ バクトラはグレコ・バクトリアの首都、現在のアフガニスタンのバルフ。
同行者の人選は相変わらず難しいが、今回の留守居役は帰還後予定している航海の優先権があると発表したので、決定は比較的スムーズである。
ところが予想もしなかったところから邪魔が入った。トキである。彼女は宣教師を連れて行くよう求めたのだ。
キリスト教に取って代わるべくトキが作り上げた宗教には、すでに小さいながら教会組織ができていた。
私は彼ら、教母や宣教師が苦手である。何しろ経典で私はキリスト教で言う大天使に相当する存在なのだ。同席するだけでも、とても鬱陶しい。
当然、猛反対である。
トキの執務室へ乗り込んでまくし立てた。
「今回は思いつきで始めたことだし、単なる情報収集だから。次回ってことじゃダメかな」
秘書を務める奴隷は退出していたので部屋には二人だけだ。
「まあ、ここから逃げるつもりなのに迷惑なことを頼むのは悪いとは思うんだけど……」
トキに下手にでられるとこちらとしても気が引けた。
「少々退屈していたのは認めるけど、逃げるって言われるのは心外だな」
「世界的な宗教にするつもりだから、アジアの人々の反応を早く知りたいんだ。今なら修正可能だからね」
「バクトラまでなら通商路を通じて安全に行けるでしょう?」
「キヨは、別の道を行くのよね」
「実は」
※ バクトラはグレコ・バクトリアの首都、現在のアフガニスタンのバルフ。
2012/07/03
2012/07/02
エルフ戦記Ⅲ(1)の続き
今の私が思いつくまま勝手に出発するのは難しい。
不可能とまでは言わない。しかし私を取り巻く狼人、山猫、アマゾネスの護衛を欺き、狼たちの嗅覚をごまかすことが可能でも、アポロニアと言う国を捨て去るわけにはいかない。
この国は四人の仲間のよるべき本拠であり、私に従い協力してくれる人々の生活の基盤であり、そして何より元の世界に戻るために私がたてた歴史改変作戦の最重要拠点である。もっとも私の作戦はトキが実行している宗教戦略に比べれば極めて些細なものであった。
船の完成までの期間に私は陸路東へ向かうつもりだ。
バクトリア王国(現在のアフガニスタン北部、タジキスタン、カザフスタンの一部)は貿易の拠点になっており、東はチン(秦)、西はパルティア、ローマ、エジプトの、そして南はインドの商人が集まり繁栄していた。またバクトリアはパルティアと同盟を結んでおり、パルティアはセレウコス朝と仲が悪い。そして敵の敵は味方ということであればエジプトと親密な関係にあるアポロニアもまた与国と言えた。
不可能とまでは言わない。しかし私を取り巻く狼人、山猫、アマゾネスの護衛を欺き、狼たちの嗅覚をごまかすことが可能でも、アポロニアと言う国を捨て去るわけにはいかない。
この国は四人の仲間のよるべき本拠であり、私に従い協力してくれる人々の生活の基盤であり、そして何より元の世界に戻るために私がたてた歴史改変作戦の最重要拠点である。もっとも私の作戦はトキが実行している宗教戦略に比べれば極めて些細なものであった。
船の完成までの期間に私は陸路東へ向かうつもりだ。
バクトリア王国(現在のアフガニスタン北部、タジキスタン、カザフスタンの一部)は貿易の拠点になっており、東はチン(秦)、西はパルティア、ローマ、エジプトの、そして南はインドの商人が集まり繁栄していた。またバクトリアはパルティアと同盟を結んでおり、パルティアはセレウコス朝と仲が悪い。そして敵の敵は味方ということであればエジプトと親密な関係にあるアポロニアもまた与国と言えた。
2012/06/30
エルフ戦記 Ⅲ(1)続き
海の見えるテラスに出ると春を告げるセフィーロ(ゼファー:西風)が心地良い。しかしここは夏になると暑すぎる。元の世界よりずっと温暖なのだ。
東方遠征の艦隊を揃えるには、アフリカ東海岸で行うことも考慮すれば、二年から三年かかる。すぐには動けない。
アルプスで避暑というのもアイデアとしては良いが、ヘルウェティイ族(現在のスイス西部に居住)はローマに帰順していなかった。行けば一波乱起こるに違いなく、とりあえず固まったローマの北方を騒がせることになる。
飽きることなく海を見ていると、ヘレンとアウレリアがテラスのテーブルに茶の用意をしてくれた。専属の奴隷たちの仕事を取り上げるので苦情もあるが、二人は決して悪い主人ではない。
配膳を終わり何かを取りに戻ろうとしたので声をかけた。
「二人とも座りなさい。言っておくけど、団扇と汗拭きはいらないから」
大船が完成するのを無為に待つ必要はあるまい。
東方遠征の艦隊を揃えるには、アフリカ東海岸で行うことも考慮すれば、二年から三年かかる。すぐには動けない。
アルプスで避暑というのもアイデアとしては良いが、ヘルウェティイ族(現在のスイス西部に居住)はローマに帰順していなかった。行けば一波乱起こるに違いなく、とりあえず固まったローマの北方を騒がせることになる。
飽きることなく海を見ていると、ヘレンとアウレリアがテラスのテーブルに茶の用意をしてくれた。専属の奴隷たちの仕事を取り上げるので苦情もあるが、二人は決して悪い主人ではない。
配膳を終わり何かを取りに戻ろうとしたので声をかけた。
「二人とも座りなさい。言っておくけど、団扇と汗拭きはいらないから」
大船が完成するのを無為に待つ必要はあるまい。
エルフ戦記 Ⅲ(1)続き
さてこうなると密かに旅立つというわけにはいかない。もともと皆に迷惑を掛ける気はないので、トキに内緒でとはいかないし、船には信用できる乗組員が必要だ。まずは山猫族のピピを呼び出した。
私の希望を聞いたピピはとても嬉しそうに尾をくねらせはしたが、発言は慎重だった。
「インドのさらに東への航海となれば大冒険ですね」
「そりゃあ、アマンへの旅に勝るとも劣らないだろうね」
「アマンとの間には大洋がありますけど、インドは地続きですよ」
「う~ん」
木登りが得意な山猫族は帆船の優秀な船員なのだが、どちらかと言えば水の上は好きでない。それにインド洋上にある我が国の船舶はアマンへの航海にもちいた大船ではなかった。アクスムで大船を建造してからの方が安全なのは言うまでもない。船大工たちは十分経験を積んでいるので一艘なら半年もあれば充分なのだが……
「よしわかった。アマンの時のものより安全な船を造らせよう」
「え~っ、すぐ出発しないんですか?」
計画をざっとパピルスに書いてトキに届けさせる。説明を聞こうともせずピピは飛び出して行った。
私の希望を聞いたピピはとても嬉しそうに尾をくねらせはしたが、発言は慎重だった。
「インドのさらに東への航海となれば大冒険ですね」
「そりゃあ、アマンへの旅に勝るとも劣らないだろうね」
「アマンとの間には大洋がありますけど、インドは地続きですよ」
「う~ん」
木登りが得意な山猫族は帆船の優秀な船員なのだが、どちらかと言えば水の上は好きでない。それにインド洋上にある我が国の船舶はアマンへの航海にもちいた大船ではなかった。アクスムで大船を建造してからの方が安全なのは言うまでもない。船大工たちは十分経験を積んでいるので一艘なら半年もあれば充分なのだが……
「よしわかった。アマンの時のものより安全な船を造らせよう」
「え~っ、すぐ出発しないんですか?」
計画をざっとパピルスに書いてトキに届けさせる。説明を聞こうともせずピピは飛び出して行った。
エルフ戦記 Ⅲ (1)
(1)
ハンニバルとガリアの脅威は過ぎ去り、ローマ世界に平和がおとずれた。
地中海沿岸でローマ・アポロニア連合に逆らう勢力はない。しかし平穏を望んでいたはずの私は退屈していた。別に暇なわけではない。事実上のトップとして政治を行なっているトキ・ゲンドゥルは私にアポロニア女王として、時に女神として振舞うように求めている。 トキの苦労は理解しているのでなるべく協力しようとは思っているのだが、どうも威張ってふんぞり返っているのは性分に合わなかった。
海が好きな私の頭に最初に浮かんだのは東方への航海だ。西方アマン(アメリカ大陸)への航海は、ある理由から必要なものだったとは言え、そして危険に満ちたものだったとは言え、今となればとても楽しい思いでである。そしてプトレマイオス朝と親しい我が国は紅海を通じインドと交易をしていた。インドだけでなくアクスム王国(エチオピア)にも商館がある。
しかしインドから東の情報は固く閉ざされていた。マレー半島やチン(秦)の特産と称した品が交易されているのにかかわらずだ。まあ気持ちはわからなくはない。インドの商人は中継ぎで莫大な利益を挙げているのだから。ただトキの歴史の知識では、インドのマウリア朝は10年ほど前にアショーカ王が没してから混乱状態にあるはずだ。これならさらに東へ進む航海を妨げる余裕はないに違いない。
もちろんヴァスコ・ダ・ガマのひそみに倣(なら)ってアフリカをまわってもいいのだが、オスマン・トルコの存在しない世界でわざわざ遠回りをすることもないだろう。
それに東に向かうというのは単なる暇つぶしと逃避だけが目的ではない。歴史に干渉していくなら、しかも大きな影響を与えたいなら東アジアや南アジアを無視するのはまずいやり方であろう。それにはまず、現在の状況を詳しく知る必要があった。
ハンニバルとガリアの脅威は過ぎ去り、ローマ世界に平和がおとずれた。
地中海沿岸でローマ・アポロニア連合に逆らう勢力はない。しかし平穏を望んでいたはずの私は退屈していた。別に暇なわけではない。事実上のトップとして政治を行なっているトキ・ゲンドゥルは私にアポロニア女王として、時に女神として振舞うように求めている。 トキの苦労は理解しているのでなるべく協力しようとは思っているのだが、どうも威張ってふんぞり返っているのは性分に合わなかった。
海が好きな私の頭に最初に浮かんだのは東方への航海だ。西方アマン(アメリカ大陸)への航海は、ある理由から必要なものだったとは言え、そして危険に満ちたものだったとは言え、今となればとても楽しい思いでである。そしてプトレマイオス朝と親しい我が国は紅海を通じインドと交易をしていた。インドだけでなくアクスム王国(エチオピア)にも商館がある。
しかしインドから東の情報は固く閉ざされていた。マレー半島やチン(秦)の特産と称した品が交易されているのにかかわらずだ。まあ気持ちはわからなくはない。インドの商人は中継ぎで莫大な利益を挙げているのだから。ただトキの歴史の知識では、インドのマウリア朝は10年ほど前にアショーカ王が没してから混乱状態にあるはずだ。これならさらに東へ進む航海を妨げる余裕はないに違いない。
もちろんヴァスコ・ダ・ガマのひそみに倣(なら)ってアフリカをまわってもいいのだが、オスマン・トルコの存在しない世界でわざわざ遠回りをすることもないだろう。
それに東に向かうというのは単なる暇つぶしと逃避だけが目的ではない。歴史に干渉していくなら、しかも大きな影響を与えたいなら東アジアや南アジアを無視するのはまずいやり方であろう。それにはまず、現在の状況を詳しく知る必要があった。
エルフ戦記 Ⅲ
壱
大秦国は大月氏西方の大国なり。太陽神の妹と称す寄与を女王となし、都羅馬の貴人が合議で政(まつりごと)をしている。
不老と言われる寄与は建国以来常勝であり、周辺の夷狄から神と尊ばれていた。申馬台、数奇台、丁零などはその類(たぐい)である。精強を誇る匈奴さえ隔年で遣いを送るのは広く知られているとおりだ。
武帝の治世の三年目建元二年に張騫が西域に派遣されたのは大月氏との同盟だけでなく、大秦国の情勢を探るのが目的だったと言われている。
一説に言う。南蛮夷の崇拝する夏罹摩亭観音も女王寄与を示すと。しかしながら、これは誤りであろう。もしそうなら漢は既に包囲されているに等しいことになる。
曹大家著『西域志』
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