普段から用意しているので準備に手間取ることはない。
同行者の人選は相変わらず難しいが、今回の留守居役は帰還後予定している航海の優先権があると発表したので、決定は比較的スムーズである。
ところが予想もしなかったところから邪魔が入った。トキである。彼女は宣教師を連れて行くよう求めたのだ。
キリスト教に取って代わるべくトキが作り上げた宗教には、すでに小さいながら教会組織ができていた。
私は彼ら、教母や宣教師が苦手である。何しろ経典で私はキリスト教で言う大天使に相当する存在なのだ。同席するだけでも、とても鬱陶しい。
当然、猛反対である。
トキの執務室へ乗り込んでまくし立てた。
「今回は思いつきで始めたことだし、単なる情報収集だから。次回ってことじゃダメかな」
秘書を務める奴隷は退出していたので部屋には二人だけだ。
「まあ、ここから逃げるつもりなのに迷惑なことを頼むのは悪いとは思うんだけど……」
トキに下手にでられるとこちらとしても気が引けた。
「少々退屈していたのは認めるけど、逃げるって言われるのは心外だな」
「世界的な宗教にするつもりだから、アジアの人々の反応を早く知りたいんだ。今なら修正可能だからね」
「バクトラまでなら通商路を通じて安全に行けるでしょう?」
「キヨは、別の道を行くのよね」
「実は」
※ バクトラはグレコ・バクトリアの首都、現在のアフガニスタンのバルフ。
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