2011/10/01

 会場は盛況である。先の大戦でローマに敗れたとはいえ、カルタゴ本国は無傷だった。
 もちろん敗戦の影響は大きい。シシリー島を失い3300タレントの賠償金を課せられたのだから。そして即刻支払う必要のある1000タレントをかき集めるため賃金の支払いを拒否したため傭兵たちの反乱がおこり、その混乱中にサルジニア島とコルシカ島まで失った。
(1タレントは6000ディナール、1ディナールは約1万円)
 しかしハンノを中心とする大地主たちの富にはさして影響はなかった。彼らにとって終戦はローマという巨大市場をあたえ、政敵であるバルカ家を遠ざける神風と言えなくもない。

 私はしかるべき人たちへの挨拶のみ終えると飲み物を受け取った。ピピは食べ物を探しに行った。招待客が多いので立食形式である。
「楽しんでもらってるかな?」
 声をかけて来たのはハミルカルその人である。雷神を思わせる異丈夫なのだが、人当たりはよく魅力的な人物だ。
「はい。閣下」彼が目で先を促すので私は続けた。「せっかくのお誘いですが、私は交易に戻ろうと思います」
「それは残念だな」
「もともと争い向きではありません」
 私は同行を望む部下たちの雇用を彼に依頼する。高額の退職金を用意したことを彼は喜んでくれた。
「どのくらいの人数になる」
「最近雇った傭兵はみな行くと思います。閣下を慕っていますから」
「キヨが望めば俺の元には来ないだろうさ」
 私はピピの言葉を思い出しながら続けた。
「山猫族はおそらく私と来ると思います」ピピの姉のライヤが彼らを率いていた。「あと水兵たちも」
「それはしかたないだろうな。もうカルタゴに海軍はない」
 ハミルカルは給仕を呼び杯を二つ取り一つを差し出した。それがローマから輸入されたぶどう酒なのはちょっとした皮肉だ。小麦の大産地であるシシリーに加え、サルジニアとコルシカを支配するようになったため半島では果樹園やオリーブ畑が増えていると聞く。
「では君の繁栄をバアル神に祈って」

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