2011/10/06

エルフ戦記 Ⅰ (4)

(4)

 シラクサを出港した私たちはその日のうちに軍港ブリンディジ(イタリア半島、長靴の踵辺り)に碇を下ろした。非戦闘員をおろしている間にローマ軍を率いてきた執政官プブリウス・コルネリウス・レントゥルスと面談する。
 なかなか感じのいい男で女の私を見くびる気配もない。カルタゴで貴族扱いされたことが意外な所で役に立っているのかもしれない。
 中肉中背、ローマ人としては長身で私より一五センチほと高い。
「ではアポロニア攻略中は海上封鎖をお手伝いするだけでよろしいのですね」
「はい。海賊退治の、そして将来は貿易の本拠地として使いたいというのは、わがままですから自ら決着をつけたいと思います」
「了解した」
「そのあと主力は作戦通り陸上を海岸づたいに攻め上がるのが最上かと」
 宿敵カルタゴを海戦で破ったとはいえ、ローマ人が海を恐れなくなったわけではない。
「ヴァルス殿はいつでも動けます」
「心得ております」
 ガイウス・ルキニウス・ヴァルスはもう一人の執政官で軍の半数二個軍団一万を率いて既にポー川の北にいる。幸いこの年、北伊のガリア人は大人しかった。

 ぶっちゃけて言うとローマ正規軍四万単独でも海賊に勝つのはそう難しくない。歴史が証明するように、いかに腕自慢の犯罪者集団でも戦争となれば統制のとれた軍隊の前には張子の虎である。ただ敵が海上に逃げたら……大損害を与えるにはポエニ戦争なみの海上兵力が必要だろう。ローマ市民が直接脅威を感じていない海賊にそれほどの軍費をかけるのは、たとえ元老院の意見が一致していても難しい。ローマでは民意が大きくものを言う。たとえそれが誤っていても。
 もちろん海賊相手に慣れた私が参加すれば足止めして大打撃を与えることが可能だ。不安なのはこれほどの戦力を指揮するのは始めての経験である点だ。
「どうされました? 風向きに不安でも?」
 彼は逆風にたなびく旗を指さす。
「いえ私はもともと戦人(いくさびと)ではなく商人ですから、臆病風なのですよ」
「カルタゴでの御活躍はローマでも有名ですよ」
「まさか」
「エルフのアマゾネスという詩曲はローマで一番人気です」
 褒め殺しなのだろうか。
「ともあれ出港時には風向きは順風になりますし、作戦通りに進むなら風は我々の味方です」
「それは魔法で?」

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