馬車のドアが開くと加藤が深々と頭を下げている。
「キヨ様、お手を」
二三発蹴飛ばしてやりたいが、衆目のなかだ。それにハミルカルの尽力で最下級とはいえ貴族の扱いを受けるように成っていたので軽はずみな行動は慎まざるをえない。
「ありがとう」
と、やむを得ず礼を述べ下車する。
議事堂に隣接したセレモニーホールは巨大な建物だ。それはカルタゴの富の象徴でもある。私のような部外者が招待されたのは傭兵の反乱による内戦でハミルカルの下で大きな戦功をあげ、彼に推薦されたためである。
簡単に実現したのは、叙勲や名誉を与えるのなら金はかからないからだと思う。
護衛は入れないので私はピピと2人で受付の前に立った。
「ようこそおいでなさいました」
この世界での名前を告げる。
「キヨ=サイト=カリステー」
「伺っております」
今のカルタゴで私の名は、自分で言うのは恥ずかしいが、それなりに有名である。
「では」
と入ろうとすると止められた。
「体を検めさせていただきます」
気色ばむピピを止める。これはハミルカルと敵対する現サフェット(カルタゴの統治者)ハンノ・ボミルカル(大ハンノ)の差し金だろう。気が進まない私としては勿怪の幸いだ。
「来たことだけを伝えていただければ結構」
ときびすを返す。
これには相手も驚いたようだ。ハンノの手の者だとしても、ハミルカルの名声と影響力を考えれば当然だ。
「お、お待ちください」
「別にかまわぬ。元々私はこういう場は好かん」
その時、後ろからトシアキの咳払いが聞こえ、ピピが私にすがりついた。ピピはこのパーティーを楽しみにしているのだ。
「お待ちください。確認してまいります」
受付の男は少しの間、幕の裏に消えてから戻ってきた。
「手違いでございました。お入りください」
誰に聞きに行ったわけでもない。彼の気配はずっとそこにあった。彼はハンノから金を受け取り、合法的に私の体を検めるチャンスに飛びついたのだろう。ハンノの単なる嫌がらせだ。
欺瞞は大嫌いだけれど嬉しそうに耳を立てたピピの顔を見るとなんともいえない。
「了解した」
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