2011/09/29

(2)

会場へは馬車で向かう。ドレスは窮屈だが、嬉しそうに褒めてくれるピピに不満な顔は出来なかった。
「とても良くお似合いですよ、キヨ様」
「ありがとう」
キヨ・サイト、これがこの世界での私の名である。5年経ったいま斎藤清と呼ばれてもすぐに返事できるかどうか少し怪しい。もう元の世界に戻ることはできないのだろうか。
いや、まだ諦めるのは早い。富を蓄えたのは別に贅沢したいためではない――まあ少しはしたいけど。私達をこの世界に送り込んだ方法を探るためなのだ。

考え事をしていた私の顔をピピが覗き込んできた。猫娘のピピにはどうもきつく当たれない。
この世界の獣人で直接見たのは3種族だ。ケルト(ローマ人の言うガリア人)と混住する山猫族、ゲルマン人と混住する狼(犬)人間、そしてギリシャのセントール(ケンタウロス)である。私の配下には人間より前2者が多かった。
「ちょっと考え事をね」
「心配しなくても、みんなキヨ様についてきますよ」
「え?」
どうやら私の悩みを勘違いしたらしい。
「お金に目がくらんでヒスパニアに行く者などいません!」
「それはどうかなあ。それに行く人たちを悪く言っちゃだめだよ」
「なぜですかぁ?」
耳をねかせ尾をくねらせるピピは可愛すぎる。思わず撫でるとピピが身をよじらせた。頬ずりしようとするとピピは身をはなす。
「今はだめですよ、キヨ様。お化粧が崩れます」
「う、うん」
ピピの真剣な顔に笑い出しそうになったが、我慢する。彼女は彼女なりに私のことを心配してくれているのだ。
「ちょっとリボンを直しますから頭を下げてください」
「あ、ああ」

私の悩みは部下として抱え込んでしまったこの世界の住人たちの身の振り方であった。これまで集めた情報を元にさらなる探索の旅に出たい私にとって付き従う多くの部下たちは重荷である。可能なら元の5人のメンバー以外はバルカ家とヒスパニアに行きカルト・ハダシュト(現カルタヘナ)の建設に携わってもらいたかった。
しかし情報に通じたピピがああ言う以上……

「はい、これで大丈夫。もう着いたようですよ」
「うん」

0 件のコメント:

コメントを投稿