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ハンニバルとガリアの脅威は過ぎ去り、ローマ世界に平和がおとずれた。
地中海沿岸でローマ・アポロニア連合に逆らう勢力はない。しかし平穏を望んでいたはずの私は退屈していた。別に暇なわけではない。事実上のトップとして政治を行なっているトキ・ゲンドゥルは私にアポロニア女王として、時に女神として振舞うように求めている。 トキの苦労は理解しているのでなるべく協力しようとは思っているのだが、どうも威張ってふんぞり返っているのは性分に合わなかった。
海が好きな私の頭に最初に浮かんだのは東方への航海だ。西方アマン(アメリカ大陸)への航海は、ある理由から必要なものだったとは言え、そして危険に満ちたものだったとは言え、今となればとても楽しい思いでである。そしてプトレマイオス朝と親しい我が国は紅海を通じインドと交易をしていた。インドだけでなくアクスム王国(エチオピア)にも商館がある。
しかしインドから東の情報は固く閉ざされていた。マレー半島やチン(秦)の特産と称した品が交易されているのにかかわらずだ。まあ気持ちはわからなくはない。インドの商人は中継ぎで莫大な利益を挙げているのだから。ただトキの歴史の知識では、インドのマウリア朝は10年ほど前にアショーカ王が没してから混乱状態にあるはずだ。これならさらに東へ進む航海を妨げる余裕はないに違いない。
もちろんヴァスコ・ダ・ガマのひそみに倣(なら)ってアフリカをまわってもいいのだが、オスマン・トルコの存在しない世界でわざわざ遠回りをすることもないだろう。
それに東に向かうというのは単なる暇つぶしと逃避だけが目的ではない。歴史に干渉していくなら、しかも大きな影響を与えたいなら東アジアや南アジアを無視するのはまずいやり方であろう。それにはまず、現在の状況を詳しく知る必要があった。
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