現在のバルカ家当主ハミルカルは、歴史上有名なハンニバルの父親だ。彼がこの時点でヒスパニアに向かうのは史実に即しており、歴史の大河はいささかの乱れもなく流れていた。魔法やピピたちのような人以外の知的生命体の存在は、まるで影響していないように思える。この世界は元の世界の改変された過去なのだろうか。もしそうなら歴史への干渉は避けたいものだ。
物思いにふけってしまい、しばらくしてピピと加藤が私の返事を待っていることに気づいた。
まずピピにうなづき、鏡の前に移動する。パーティーの時間は迫っていた。
「それで?」
これは加藤に。
「バルカ家と共に行くなら今日返事が欲しいそうだ」
「うん」
そのまま黙るが、加藤はおとなしく返事を待っている。バルカ家とは、ここで分かれると決めている。しかし今や私たちは大きな戦闘集団であり、平和になったカルタゴには居場所がなく、何らかの手を打つ必要があった。
その間にピピは太陽と潮風で脱色した私の髪を綺麗に結い上げる。しかめっ面からみると海へあまり行かないようにと言いたいのだろう。
ピピが化粧品を取り出すと今度は私が顔をしかめる番だ。普段なら断固拒否の化粧もハミルカル主催のパーティーとならば必要なのは分かっているのでやむを得なかった。
エルフらしからぬ浅黒い肌をせめて顔だけでもとピピはエジプト製の化粧品を塗りたくる。
次にピピが手にした口紅を睨みつけながらこう返事をした。
「バルカ家とはわかれる」
「そんな気はしていたよ」
「ただ同行したいものを止めはせぬ。部下たちにこう伝えてくれ。バルカ家に付いて行きたい者にもこれまでの給金を払うし、退職金は通常の5割増しだす」
「おいおい、辞めて行く者にか?」
「この地で傭兵稼業は続けられない。放置すれば新たな反乱の原因になる」
「わかったよ。それでパーティーには来てくれるんだな」
私がおとなしくアイシャドウを塗られるのを見て加藤はそのまま立ち去った。
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